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神戸地方裁判所 平成8年(ワ)732号 判決 1997年10月14日

原告

井上恒嗣

ほか一名

被告

森嶋英富

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して原告らに対し、それぞれ金六八九万一七九五円及びこれに対する平成六年一〇月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは連帯して原告らに対し、それぞれ一二三三万三四九六円及びこれらに対する平成六年一〇月一八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、後記の交通事故(以下「本件事故」という。)により死亡した訴外井上美佐(以下「美佐」という。)の両親である原告らが、被告らに対し、民法七〇九条及び自賠法三条により、損害賠償を求めた事案である。

なお、付帯請求は、本件事故の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

一  争いのない事実等

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成六年一〇月一八日午前三時一五分頃

(二) 場所 神戸市兵庫区鵯越町六番地の一先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 加害車両 普通乗用自動車(車両番号・神戸五四さ一八二二、以下「被告車」という。)

右運転者 被告森嶋英富(以下「被告森嶋」という。)

右所有者 被告橘田ゆかり(以下「被告橘田」という。)

(四) 態様 被告森嶋が、被告車を高速で運転中、ブレーキをかけたため滑走し、同車が駐車車両に衝突し、次いで信号柱等に衝突したため、被告車の後部右側座席に同乗していた美佐が死亡した(甲一、乙一、六)。

2  被告らの責任

(一) 被告森嶋

被告森嶋は、制限速度を遵守し、適宜速度を調節し、左湾曲部の本件交差点を円滑に進行すべき注意義務があるにこれを怠り、時速約九〇キロメートルの高速度で進行した過失により、右湾曲部を曲がりきれず、自車を滑走させて本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により後記損害を賠償する責任がある(甲九、乙一、六)。

(二) 被告橘田

被告橘田は、被告車を保有し、自己のため運行の用に供していたから、自賠法三条により後記損害を賠償する責任がある。

3  身分関係及び相続

美佐は、昭和五三年四月一四日生まれであるところ、原告井上恒嗣(以下「原告恒嗣」という。)及び原告井上博恵は、美佐の両親であり、美佐の本件事故による損害賠償請求権を各二分の一の割合で相続した(甲三、七、乙二、原告恒嗣本人)。

二  争点

1  好意同乗による減額

被告らは、美佐は、被告森嶋の弟である森嶋威臣(以下「威臣」という。)の友人であり、被告森嶋が、本件事故当時、仮運転免許を取得していたものの、運転資格を有していないことを承知のうえ、深夜、食事に行く目的で被告車に同乗し、同被告が制限速度をはるかに超過し、時速九〇キロメートル以上の高速度で運転しているのに速度を落とすようにとの指示、要請をしなかったものであるから、過失相殺ないしはその準用により、その損害につき五〇パーセントの減額がなされるべきである旨主張する。

2  損害額

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠(甲六、七、九、検甲一の一ないし七、乙一ないし六、証人威臣、被告橘田、弁論の全趣旨)によると、次の事実が認められる。

(一) 本件交差点は、市道山麓線に数本の道が交差する変形交差点であり、かつ大きく湾曲していた。本件事故現場道路の制限速度は四〇キロメートル毎時と指定されていた。

(二) 被告森嶋は、本件事故前、友人の被告橘田から被告車を借り、同被告、威臣及びその友人である美佐、大町由美子(以下「大町」という。)を同乗させ、制限速度をはるかに超過した時速七〇ないし八〇キロメートルの速度で運転し、本件事故直前には時速九〇キロメートル以上の速度で進行し、左側に大きく湾曲する本件交差点に気付き、ブレーキをかけたが、ほとんど減速しないで横に滑走し、駐車車両、信号柱及びガードレール等に衝突し、停止した。

なお、被告森嶋は、一度取得していた運転免許を取り消されたため、再度、自動車学校に通い、仮運転免許を取得していたものの、運転免許を取得していなかったため、本件事故当時、助手席に運転免許を取得してから三年以上経過している者に同乗してもらう必要があった。しかし、助手席に同乗していた被告橘田は、運転免許を取得してから三年経過していなかったから、被告森嶋の右運転は、有資格者を同乗させない運転であり、道路交通法に違反するものであった。

(三) 美佐は、本件事故前、威臣及びその友人数名と遊んでおり、被告森嶋から食事に誘われた威臣に付き合い、同人及び大町と被告車に同乗することとし、後部右側座席に座り、大町としゃべっていたところ、間もなく本件事故にあった。

(四) 威臣は、兄の被告森嶋から食事に誘われ、同被告が法律上運転できないことに気付きながら被告車に同乗し、同被告が高速度で運転していたことにも気付いていたが、速度を落とすように指示、要請しても聞き入れてもらえないと考え、黙って同乗を続けていて本件事故にあった。

被告橘田は、本件事故直前、被告森嶋が時速一〇〇キロメートル近い速度で被告車を運転していることに気付いていたが、同被告の運転が上手であることを知っていたため、黙って同乗を続けて本件事故にあった。

大町は、本件事故で頭を強打したこともあって、本件事故前、被告車に同乗した記憶はあるが、それから病院のベッドで意識を回復するまでの間の記憶がない。

威臣は、美佐及び大町に対し、被告森嶋が運転免許を取得していないことを話したことはなく、大町も右事実を全く知らなかった。

2  右認定によると、美佐は、被告森嶋の弟である威臣と友人であったが、大町同様、被告森嶋が運転免許を取得していないことを知らなかったとみるのが相当であり、本件事故当時、被告森嶋の運転免許の取得の事実を確認しなかったことにも格別落度があったとまではいえない。

右及び前記認定によると、美佐は、本件事故当時、大町としゃべっていたものの、その年齢、資質等から、被告森嶋が制限速度をはるかに超過して被告車を運転していたことに気付いていたと推認できるから、美佐が被告森嶋に速度を落とすよう指示、要請をしないで黙って同乗を続けていたことには落度があるといわざるをえない。美佐が友人の兄である被告森嶋に右指示、要請をしにくかったと推認されることも右認定を左右しない。従って、美佐は、本件事故に関し、危険を容認し、損害拡大に寄与したといわざるをえないから、多少の過失はあるというべきである。

そこで、その他本件に現れた一切の諸事情、特に美佐と被告森嶋との過失を対比のうえ、美佐の損害額につき、好意同乗を理由として一五パーセントの減額をするのが相当である。

二  争点2について

1  葬儀費用(請求及び認容額・一〇〇万円)

証拠(証人威臣、原告恒嗣、弁論の全趣旨)によると、原告らは、美佐の葬儀を執り行い、相当の費用を要したことが認められる。

右認定に美佐の年齢等を考慮すると、その葬儀費用は一〇〇万円とみるのが相当である。

2  逸失利益(請求額・三二六六万六九九二円) 三〇三三万三六三六円

証拠(甲七、乙二、原告恒嗣、弁論の全趣旨)によると、美佐は、本件事故当時、一六歳であり、高校を退学した直後であったことが認められる。

右認定に本件に現れた諸事情によると、原告ら主張のとおり、美佐は、本件事故がなければ高校卒業時の一八歳から六七歳に達するまでの間、賃金センサス平成六年女子労働者中卒一八・一九歳の年間給与額二〇一万八三〇〇円程度の収入を得られたものと推認でき、その生活費としては三五パーセント程度を要するものとみるのが相当である。

そこで、ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除し、美佐の本件事故当時における逸失利益の現価を算定すると、次のとおり三〇三三万三六三六円となる(円未満切捨、以下同)。

2,018,300×0.65×(24.983-1.861)=30,333,636

3  慰謝料(請求額・二〇〇〇万円) 一九〇〇万円

原告らが、美佐の死亡により、自賠責保険金以外に被告橘田が加入していた搭乗者保険から五〇〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、これも慰謝料の一事由として斟酌すべきである。そして、本件事故の態様、結果、美佐の年齢及び家庭環境等本件に現れた一切の事情を考慮すると、同人の精神的苦痛に対する慰謝料としては一九〇〇万円が相当である。

4  小計 五〇三三万三六三六円

5  好意同乗による減額

美佐の損害額につき、好意同乗を理由として一五パーセントの減額がなされるべきであることは前記のとおりであるから、その割合で減額すると、その後に美佐の請求できる損害金額は四二七八万三五九〇円となる。

6  損害の填補

原告らが、本件事故に関し、被告橘田の加入していた自賠責保険から三〇〇〇万円の支払を受けたことは、当事者間に争いがない。

すると、その控除後に美佐の請求できる損害金額は一二七八万三五九〇円となる。

7  弁護士費用(請求及び認容額・一〇〇万円)

本件事案の内容、訴訟の経過及び認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、原告ら主張の一〇〇万円は下らない。

8  相続

原告らは、美佐の両親であり、同女の本件事故による損害賠償請求権を各二分の一の割合で相続したことは前記のとおりであるから、原告らの被告らに対して請求できる各損害金額は、六八九万一七九五円となる。

第四結論

以上のとおり、原告らの本訴請求は、主文第一項の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとする。

(裁判官 横田勝年)

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